目次
現代のマーケティング戦略は多くの行動心理学をビジネスに応用しています。
その中でも、好意の返報性を初めとした返報性の原則は、うまく使えばWin-Winの関係を築くことができる重要な心理傾向です。
この記事では、返報性の原則のマーケティング活用方法や注意すべきポイントについてご紹介します。

好意の返報性とは
好意の返報性とは、相手から好意や親切を受け取ったときに、「こちらもなにか別の形でお返しをしないといけないな」と感じる心理傾向です。
最初はウィンドウショッピングのつもりで店内を歩いていたが、店員さんから丁寧な接客や細やかな気配りを受けて、ついついおすすめされたものを買ってしまった。
そういった経験をしたことはないでしょうか。
これが、好意の返報性です。
現代ではあらゆる場所で、好意の返報性を利用したマーケティング戦略が行われています。
例えば、デパ地下での試食や化粧品のタッチアップ、菓子店のお茶請けサービスなどがわかり易い例です。
「好意には好意で返したい」という人間の無意識を意識的に利用できれば、さまざまなビジネスシーンで物事を円滑に進めることができます。
4つの「返報性の原理」

返報性の原理が働くのは、なにも好意に限った話ではありません。
一般的に、人間には4つの「相手にやられたことと同じ感情を返す」という返報性の原理が存在します。
- 好意の返報性……好意には好意で返す
- 敵意の返報性……敵意には敵意で返す
- 譲歩の返報性……先に譲歩されたら、次はこちらが譲歩する
- 自己開示の返報性……自己開示されると、胸襟を開きたくなる
4つの返報性の原理について、順番に紹介します。
好意の返報性
好意の返報性は、相手からなにか嬉しいことや親切なことをされると、そのお返しがしたくなる人間心理です。
SNSの「いいね」機能、大事な話をする際に持っていく手土産、何気ない朝の挨拶など。我々は意識的であれ無意識的であれ日常的に好意を送り合っています。
親切と親切の交換を続ける好意の返報性は、お互いにWin-Winの関係を結びやすいため、分野を問わずさまざまなマーケティングで活用されています。
敵意の返報性
好意に返報性があるのと同様に、敵意にも返報性があります。
敵意の返報性とは、相手からの敵意や悪意を感じると、無意識のうちに同じような敵意を返したくなる心理傾向を指します。
例えば、SNSやゲームチャットで嫌味を言われたり揚げ足を取られたりして、そのつもりがなかったのに言い争いになった経験はないでしょうか。
他にも、どれだけ欲しかった商品でも、店員の接客態度が悪ければその店での購入は控えてしまいます。
誰しもが好意には好意を、敵意には敵意を返します。
好意の返報性を意識するならば、同じように敵意の返報性にも気を配るべきです。
譲歩の返報性
譲歩の返報性とは、先に譲歩してくれた相手には、なにか譲歩しなくてはいけないように感じるという心理傾向です。
例えば、買うかどうか悩んでいた商品をその場で値引きしてもらった場合、買わずに立ち去るのは忍びないと感じます。
遊びに誘われて「その日は忙しい」と断った後に、「じゃあ来月なら何日が都合いいかな」と聞かれると行きたくないとは言い出しづらいです。
譲歩の返報性は親切の交換という意味では好意の返報性に近しいものであり、好意よりもさらに交渉事に応用しやすい心理傾向です。
好意と譲歩の返報性を応用した有名な交渉テクニックとして、ドア・イン・ザ・フェイス(譲歩的依頼法)がありますが、そちらについては次の「返報性の原理を活用したマーケティングテクニック」にて詳しく紹介します。
自己開示の返報性
自己開示の返報性は、相手が自身の秘密やプライベートを打ち明けてくれると、自分の秘密も話さなくてはいけないように感じる心理傾向です。
例えば、営業では新規開拓の際にサービスの概要書などに加えて、自分自身のプロフィールも資料として持っていくことがあります。
これは自身の出身地や趣味、学生時代のエピソードなど、さまざまな自己開示を行うことで、相手との信頼関係をスムーズに築くことができるからです。
初対面でも相手が壁を作らずに話しかけてくれると、自分も胸の内を話しやすくなるものです。
うまく自己開示の返報性を活用することで、相手との距離を縮め、これまでよりさらに突っ込んだ話に持ち込めます。
返報性の原理を活用したマーケティングテクニック

返報性の原理はさまざまな分野で応用されています。
ここではよくビジネスで意識されるマーケティングテクニックを3つ紹介します。
積極的な挨拶
好意の返報性と自己開示の返報性を最も気軽に応用できるのが、毎日の挨拶です。
「おはようございます、今日も一緒に頑張りましょう!」と、声をかけ相手のことを気にかける。
挨拶という非常に些細な「好意と自己開示」を毎日続けるだけでも、相手はこちらを無下にしづらくなっていきます。
小さな貸しを積み上げる
マーケティングの分野では、小さな貸しを積み上げることで、より大きな取引に結びつける手法がよく使われます。
例えば、無料サンプルの提供や些細な要望に融通を利かすなど、あまりコストがかからない顧客にとっての些細なメリットを積み上げることで、後々に大きな契約を切り出しやすいです。
ここでいう小さな貸しとは、日常の些細な親切や気遣い、何気ない歩み寄りの積み重ねを指す言葉です。
日々の何気ないアドバイスや仕事のちょっとした手助けのような小さな行動でも、積み重ねていくことで相手に対して好意の返報性が働きやすくなり、心理的なハードルが下がります。
昔からよく「情けは人の為ならず」といいます。
よく誤用されますが、本来は「人に親切をすれば、それが後々良い報いとなって自分に返ってくる」という意味です。
些細な親切の積み重ねによって、相手は感謝や義理を感じるようになり、いざというときにスムーズに”お願い”をすることができます。
ドア・イン・ザ・フェイス
ドア・イン・ザ・フェイス(譲歩的依頼法)は、わざと難しい”お願い”を断らせたあとに、それより些細な本命の”お願い”を承諾させる交渉テクニックです。
これは好意や譲歩の返報性を利用した有名なテクニックで、訪問販売の「shut the door in the face(門前払い)」を由来としています。
まずは門前払いさせてから本命の交渉に入るという意味で、相手は一旦譲ってもらった手前無下にしづらくなり、交渉内容を前向きに考えてくれます。
加えてドア・イン・ザ・フェイスの巧妙な点は、実際に譲っていなくても、相手が譲られたと感じてくれさえすれば効果があるという点です。
一例を挙げましょう。
ある企業の担当者に、「被災者義援金のために御社には500万円ほどの寄付をお願いしたいです」と提案しました。
しかし担当者は「義援金の意義には賛同しますが、さすがに500万円となると……」と難色を示します。
そこで、すかさず本命の提案に切り替えます。
「それは残念です。しかし、義援金の意義には賛同いただけているとのことですので、では、500万円は難しくても、数十万円程度でもご協力いただけないでしょうか」
もしくは寄付金ではなく賛同自体が目的ならば、
「被災地域の復興プロジェクトを進めております。ぜひこのプロジェクトにご協力いただければと思います」と切り出します。
このとき、相手は提案者に一切の負い目がないにも関わらず譲歩されたという気分になり、本命の提案に対して前向きに応じなくてはいけないという心理が働きます。
好意の返報性を利用する際の注意点

返報性原理をビジネスに利用したい場合、闇雲に好意を振りまいても意味がありません。
好意の返報性を利用する際に注意すべきポイントについて3つ紹介します。
見返りを迫らない
返報性の原理を活用する場合、相手に見返りを迫ってはいけません。
見返りを求めた時点で相手は好意がただの取引だった(または恩着せがましい)と感じ、場合によっては敵意の返報性へと変わります。
「あれだけ親切にしてやったのに断るのか」のような、相手の気持ちを無視した押し付けがましい行動や言動は控えるべきです。
返報性の原理を活用する場合、相手に純粋な好意や親切心を持つことが大前提であることに注意しましょう。
些細な親切に止める
あまり高価なモノや行き過ぎたサービスは、逆に相手を警戒させます。
相手がこちらを疑うようになれば返報性は意味をなしませんし、行き過ぎた好意や譲歩はお互いの関係を歪めます。
返報性の原理を活用する際はあくまでも些細な親切にとどめることが重要です。
関係性の構築を意識する
返報性の原理に限りませんが、誰が何をやったかで人の評価は大いに変わります。
そのため、より大きな親切や頼み事を行う場合、深い関係を築けているかが非常に重要です。
返報性の原理を活用する場合は、相手との関係性の構築を意識すると良いでしょう。
この相手の特徴や関係値によって評価や対応が変わるという心理傾向は、一般的にハロー効果と呼ばれます。
一貫性の原理との違いについて

返報性の原理に似ている原理として、一貫性の原理という行動心理学用語があります。
一貫性の原理は、自身の考え方や行動に一貫性をもたせようとしてしまう心理傾向のことです。
例えば、買い続けている作者の新作だからという理由だけで内容を確認せずに買ってしまったことはないでしょうか。
人は一度決定した態度をなかなか翻すことができません。
一貫性の原理を応用した交渉テクニックとしては、「フット・イン・ザ・ドア(ドアが閉じられないよう足を挟み込む)」が有名です。
フット・イン・ザ・ドアは、ドア・イン・ザ・フェイスとは逆に小さな要求を何度も承諾してもらうことで、大きな要求に対する心理的ハードルを下げていきます。
返報性の原理は顧客との関係性を変化させるのに利用するテクニックでしたが、一貫性の原理は相手の中にある納得感を演出するための原理として用いられるテクニックです。
両者は非常に近しい存在で、同時に演出することもよくあります。
例えばスーパーの試食は、「美味しいから一度食べてみて」というフット・イン・ザ・ドアな交渉から始まり、「食べたのだから買わないと」という一貫性の原理と、「せっかく試食させてもらったのだから」という好意の返報性の双方をうまく応用しています。
好意の返報性はビジネスをスムーズにするための重要スキル

好意の返報性は、親切にしてもらうと親切を返したくなる人間心理です。
自分がしたことは、自分に返ってくるという返報性の原理は、さまざまなマーケティング戦略で意識されており、うまく使えば交渉をスムーズにまとめることができます。
とはいえ、返報性の原理は万能ではなく、ちょっとしたすれ違いからマイナスに働く可能性もあります。
ビジネス上の交渉やマーケティング戦略に応用する際には、注意点も含めて意識的に使いこなす努力が必要です。
こうした行動心理学の応用は、ビジネスの活性化には欠かせません。
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投稿者プロフィール

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1985年福岡生まれ
福岡発のインサイドセールス支援会社、soraプロジェクトの代表
スタートアップから外資大手まで700以上の営業支援プロジェクトの実績を持つ。
営業活動でお困りの会社様へターゲットリスト作成から見込み客育成、アポの獲得まで、新規開拓の実行支援が専門分野。
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